本庁
 山口が頷き、信号停車でいったんシートへと凭(もた)れ込む。


 双方ゆっくりと息を吐き出し、蒸し暑い車内で肺の中に酸素を確保することに苦労する。


 ふっと山口は思い出した。


 昔、まだ入庁当時お世話になり、今は都内の老人施設で暮らしている河東(かとう)勇太郎さんのことを。 


 河東さんは退職間際に、まるで漏らすかのようにして言っていた。


「俺は十年前、察庁のキャリア幹部が隠した裏金を暴いてたんだ」と。


 未だに察庁内に数十億円という裏金が存在するらしい。


 おまけに河東さんはちゃんとしたネタ元からその裏金の行き先まで掴んでいた。


 通称<ピーズファイル>というファイルが、警察のホストコンピューターの中に残っているらしいのだ。


 ピーズのPはポリスの頭文字であるPだ。


 ピーズファイルはどこかに眠り続けている。


 今回の事件には関係がないにしても、あれだけやり手で通っていた河東さんが暴露した

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