本庁
「実は品川の港に停泊中の、積荷の載った北朝鮮行きの船舶を公安のチーフの那珂川君が取り締まってるらしくて、吉田たちは故国にいろんな物資を送るため、画策しているらしいんだよ。つい先日、一斉検挙があったのは知ってるだろ?」


「ええ」


「あのときに吉田が尻尾を出すかどうか、俺も、他の所轄の刑事たちも、おまけに本庁の人間でさえも窺ってたんだ。じっとね。そしたら那珂川君がものの見事に暴いただろ。それで俺は一安心したんだ。そしたら今度は別のヤマが水面下で進行中なのを知った。それは――」


 阿部がそう言った瞬間、刑事課内にある固定電話が鳴り出した。


 多分、所轄内の事件の発生だろうと山口たちは軽く考えながら……。


「失礼。電話は警部補の片山が取ったみたいだ。……それでそのヤマというのがね、一昔前警察内部に裏金があるという事実を暴いた刑事がいて、その男性が作成していたファイルが古いコンピューターの中に保存してあったんだ。ピーズファイルというタイトルでね。コピーガードが掛かってたんだけど、十一桁の暗証番号を入力すると解除されたから、早速紙に印刷して私のデスクに仕舞っておいたんだ」


「それは河東勇太郎元巡査部長が作られたファイルのことですよね?」


「ああ。河東元巡査部長は退職間際に察庁の幹部の人間たちが裏金を隠し、その不当な金をある場所にプールしている、とね」

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