本庁
 警官は殺人犯や暴力団などを捜査対象――いわゆるマル対というやつだが――としている以上、口で喧嘩を吹っかける前に、相手を殴ったり、蹴ったり、下手すると銃を取り出すことさえある。


 目の前でヘラヘラと笑っている阿部は完全に山口や安川をバカにしていた。


 ただ、山口は思っている。


「キャリアの連中に何が出来るのか?」と。


 どうせ自分たちよりも階級が下の連中を上手いこと使って、椅子に座ったままでも出世していく身なのだから……。


 警視の阿部は国家公務員第Ⅰ種試験に合格している以上、勉学の頭はいいのかもしれない。


 ただ、その手の人間にありがちな、机上だけの構想や作戦を立てるのが上手くて、実際の捜査現場で何が起こっているのか、知るはずもないのだ。


 それに阿部はおそらく警部補辺りからスタートしているはずである。


 警察でも国税でも、役人と呼ばれる人間たちの中でもキャリアの連中の悪いところは、下の人間たちの思いが汲み取れないことだった。


 だから山口はなお一層、今回の高城和哉氏殺害事件と、捜査線上に浮上してきた吉田を


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