本庁
 皆がじっとケータイの画面を見続ける朝の光景が今日も目に留まった。


 山口は駅内にあるキオスクでパンを買って齧りながら、同時に買っていた新聞を読み始める。


 社会欄に目を落とすと、例の北朝鮮への船舶に対する臨検が行われたニュースが躍っていた。


 まさに一斉検挙で、数人の在日朝鮮人が逮捕されたらしい。


 船舶の臨検担当は公安警察のデカであるあの那珂川だった。


 那珂川は実に朴訥(ぼくとつ)な男である。


 口数が少ないし、酒もタバコも女も、男の欲望の捌け口となるものには一切手を出さない。


 そして自他共に認める仕事人間だ。


 一度、夜の歌舞伎町で数人の在日フィリピン人女性を売春させていた風俗店を取り締まった過去もあったし、諸外国に大量に流れていく札束は那珂川に言わせれば、害悪そのものらしい。


 その道に関しては辣腕で通っている那珂川の手に掛かれば、どんなトラブルも解決するようだ。
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