本庁
 今夜のヤマは殺人で、検視官が来るまで、遺体には手が付けられない。


 すでに機動捜査隊――通称キソウ――による初動捜査は一通り終わっていて、後は自分たち本職の刑事がヤマを解決するだけになっていた。


「山口警部補」


 背後から聞き覚えのある声がする。


 振り返ると、新宿中央署刑事課巡査部長の大出(おおいで)だった。


「おう、君も来てたか」


「ええ。私はすでに所持品からマル害の身元を突き止めました」


「殺されたのはどこの誰?」


「高城和哉。新宿のビルの一室を借り受けて会社を経営していた青年実業家です」


「死因は?」


「心臓付近に鋭利なナイフのようなものによる刺し傷が一箇所、あと後頭部に置物のようなもので殴打された跡が一つ残っていました」


「ナイフで刺して、留めの一発が後頭部殴打だな?」

< 4 / 110 >

この作品をシェア

pagetop