本庁
「ええ」


 山口は所轄の警部補に過ぎないのに、いきなり本庁の捜査一課長から名前を呼ばれ、当惑した。


「君たち所轄の人間の方が、我々本庁の捜査員よりも事情が詳しいと踏んでね」


 まだ入庁して間もないぐらいの、およそ一青年に過ぎない村山はそう言って、笑ってみせる。


 キャリアの旧弊は警察内部でも抜けきっていない。


 まさにそれを象徴しているのが、目の前にいる世間知らずの警視正だ。


 村山は捜査本部に入り、中央席に座って、所轄の刑事たちの手並みを拝見するかのように悠然と構えている。


 そして村山が管理官である警視の香川と並んで、時折耳打ちしながら、所轄署の警官たちの話を聞き始めた。


「……現場に残っていた血液や体液を鑑識にて調べたところ、吉田栄輔のそれと一致しました」


 大出がそう言い、ゆっくりと頷いてみせる。


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