本庁
 そのコンピューターが何かをきっかけに本庁へと運ばれて、眠っていたのだ。


 九十億円といえばちょっとした額の金である。


 しかも裏金の類だ。


 河東はキャリア警官と果敢に戦った。


 だが、結局報われることもないまま警察からお払い箱になり、今静かに暮らしている。


 山口は一度河東に訊かれたことがあった。


「君はなぜ、警官という職業を選んだんだい?」と。


 即答できずにいると、河東が、


「俺は世の中の悪と戦うために警察官になったんだ。それが俺の使命だと思ってる」


 と言い、一転笑顔になって頷いてみせた。


 そのときの河東の顔を山口は忘れられずにいたし、忘れたくない。


“河東さん、あなたが作ったピーズファイルは無事見つかったよ”


 山口はそう思いながら、六本木の大伴良三撲殺の現場へと車を走らせた。
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