本庁
「山さんは甘い。そこまでって言うけど、美和子にしてみれば、これぐらいやってもやり足りないぐらいだろうと思うよ」


「そんなに父親を見殺しにされたことが、復讐の動機となるのかい?」


「ああ。確かにあの事件のとき、俺はヒラの巡査の身で現場にいたんだ。佐田警部補がまんまと犯人グループから嵌められて、爆弾の詰め込まれた囮(おとり)車両に踏み込み、一瞬にして爆殺されちゃったことを」


「俺は新宿中央署で、犯人グループに投降を呼びかけてたな。早く撤収しろと」


 山口はあのときの光景を脳裏に鮮明に思い出していた。


 あのとき山口もまだ巡査で、河東が巡査部長、そして美和子の父親である佐田建作は警部補だったのだ。


 今から十年前、警察内部で汚職事件があり、疑惑に絡んでいた民自党の議員数名が逮捕された。


 警察庁長官の元村は不思議と逮捕されずに、議員引退と銘打って、政界と決別したのだ。


 そしてピーズファイルに一連の疑獄を打ち込んだのは河東勇太郎だった。


 あのファイルで河東が告白したかったのは、スケープゴートなどと言って佐田警部補を爆弾の詰まれた車両に進入させ、犯人サイドの思う壺にし、爆弾のスイッチを押して爆殺
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