桐壷~源氏物語~
室内には何人かの女房が居て、しみじみと琴の奏でる曲に耳を傾けている。
問題の、琴を弾いている女性は、うつむきがちに弦を爪弾いているので、顔を拝む事は出来ない。
帝は残念で仕方が無かったが、その女君のつやつやと輝く髪の毛の豊かさ、琴を爪弾いている指の白さ、細さに自然と目が行くのだった。
耳は琴の音を、目は女君の姿を追う。
かつて、この帝がこんな風に必死になって女性に心惹かれる事があっただろうか。
強引に、彼女を手に入れてしまう事は出来る。
だが、何故かそれをしてしまったら、何かが壊れてしまう様な気がした。
あんなに白く華奢な体つきで、あんなに柔らかで優しい音色を奏でる人を、無理矢理に奪ってしまっては、いけない様な気がしたのだ。
帝は唇に匂いやかな微笑を浮かべると、階(はし)を下りて、桐壺の周りの庭を一人散策した。
そして、ふと気がついて、ある事をしたのだった。