桐壷~源氏物語~
翌朝。
桐壺に仕える女房が戸を開けると、簀子(すのこ)の上に、紫色の可愛らしい菫(すみれ)、それに結ってある高級な薄紙を発見した。
「まあ…。姫様、可愛らしいお花とお文です。何処(いずこ)の公達(きんだち)でしょうか」
誰よりも驚いたのは、桐壺更衣その人だった。
父が亡くなって以来、身分や金銭目当てで文を寄こす男性は、皆無になった。
それに、どこかの公達の目に留まる様な行為は、一切した記憶が無い。
どうして私に、こんな…?
白魚の様な指先で、立派な御料紙を広げていくと、流麗な文字で、和歌が綴ってあった。
「君がため 春の野に出でて すみれつむ わが衣手は つゆにぬれつつ
(あなたの為に春の野原に出てすみれ草を摘む、私の衣の袖は涙に濡れ続けていることです)」