桐壷~源氏物語~


白い瓜実(うりざね)顔。

頬は少女の様にふっくらとしていて、赤い紅をひいた小さな口は、大変可愛らしい。

そして、長い睫毛に縁取られた大きな瞳。



ああ、やはり。

さぞ美しい人だろう、と思っていたが、ここまでとは、と思いながら溜め息を漏らしていた。

あんな、えも言われぬ様な沈の香を焚きしめる人。

あんなに、人の心を掴んで離さない琴の音を奏でる人。



彼女を見て、心の底から納得していた。



「あの御方ですか。本当に、すみれ草を下さったあの御方ですか」



彼女が、涙がちに此方を見つめてきた時の、その表情を忘れる事が出来ない。

自分の気持ちが、彼女に通じていた。


帝は、こんなに恋というものが素晴らしいものだったのか、と改めて思う。
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