桐壷~源氏物語~
まだ、帝の力強い腕の感触が、身体に残っている。
ああ、あの文をいつも下さっていた御方が、帝でいらしたなんて。
局に戻ってから、昨日躑躅(つつじ)と一緒に貰った文と、今までとっておいた文箱の中のものを見比べてみると、やはり同じ様だった。
嬉しさに頬を染めながらそれらの文を読みなおしていると、帝からの後朝(きぬぎぬ)の歌が送られて来たので、さらさらと返歌を書き綴る。
桐壺更衣は、いままでに感じたことのない、深い幸福感と充実感に満たされていた。
心から安心して、身体を預ける事が出来る人が居ると、人はこうも幸福になれるものなのだろうか。
幸せそうに微笑んで、帝からの文をいつまでも手離さない彼女の様子を見て、彼女付きの女房達は微笑み合った。
皆が、この後宮に来てからは心細い思いをしていたが、今は違う。