桐壷~源氏物語~



「姫様、今上(きんじょう)はどのような御方でしたか」


女房達は、自分達が仕えている姫が帝から選ばれたことに、心から誇りと嬉しさを感じていた。

それだけ桐壺の更衣は、お付きの者たちからは愛されていたのである。

彼女はしばらくの間考えてから、こう答えていた。


「お優しい方だったわ」

はにかんだように笑う彼女を見て、皆がその笑顔に釘付けになる。


「御噂だと、まるで絵巻物に出てくる公達のようにお美しいとか」

若い女房は、話が聞きたくて堪らなそうだ。

年嵩の者は、「これ」と声を掛けるが、桐壺更衣はそれをやんわりと制した。


「ええ、あんなに立派で美しい男のカを見たのは、初めてでした」


若い者たちは、きゃあと黄色い声を上げて騒ぎ立てている。

それを、桐壺更衣は柔和な笑顔を浮かべ、見守っていたのだった。

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