桐壷~源氏物語~
私は、あの菫(すみれ)草とお文を頂いた時から、いや、もしかしたら今世ではなく前世から彼に恋をしているのかもしれない。
私は、思いきって口を開く。
「何をお考えになっていらっしゃるのですか」
彼は微笑むと、こう口にする。
「私は君をずっと前から知っていて、もしかしたら君に会う為に生まれてきたのかもしれない、と思ってね」
私はその言葉に瞳を見開く。
まさか、全く同じことを考えていらっしゃるなんて。
「どうしたんだい。そんな顔をして」
彼が、私の顔を覗き込んでくる。
この人の妻になったというのに、いまだに慣れないのは何故なのだろう。
私は呼吸を数回してから、やっとの事で絞り出した。
「私も、同じことを考えておりました」
それを聞くと、彼はびっくりまなこになり、顔を赤くさせる。
まあ、こんな風にお恥ずかしがられるなんて…。
「見ないでくれ。恥ずかしいよ」
私はくすくすと笑いをこぼしながら、彼を見つめた。