桐壷~源氏物語~
今夜も帝からのお召しで、清涼殿へ赴く事になった。
御簾(みす)の内側から恐ろしい程の数の視線、悪口を浴びなくてはならない。
私は緊張の余り、がたがたと身体が震え、汗ばんでくるのを感じた。
ああ、一刻も早く帝にお会いして、安心したい。
あの御方にお会いしている時が、私の唯一の幸せな時間だから。
そう思って必死に一歩ずつ歩んでいた時の事である。
突然、先触れの女房達が大きな悲鳴をあげた。
「何事ですか」
私はなるべく冷静に彼女たちに聞こうとしたが、その瞬間、あまりの衝撃に私も悲鳴をあげた。
女房達の衣装の裾が、人の汚物で汚れてしまい、異臭を放っている。
御簾の内の女達は声を上げて、笑い合っている。
廊下に、汚物がわざと撒き散らしてあるのだった。