桐壷~源氏物語~
大納言だった父上は、去年の暮れに亡くなってしまわれた。
お父様、何故お亡くなりになってしまわれたのですか。
早すぎます。
けれど、お父様のように立派でお優しい方ならば、仏様も無事に、極楽浄土へと連れて行って下さったことでしょう。
そちらは楽しいですか、心安らかでいらっしゃいますか。
お父様に今一度お会いしたい。
心からそう思います。
涙ぐんでいる私を見て、女房の一人がこう私に諭す。
「ほらほら姫様、涙をお拭きになって。今日は亡き大納言様もお望みになられていた、晴々しい日ですよ」
私はこくり、と頷いた。
大した後ろ盾も無い私。
「大殿(おとど)様がいらっしゃったら」
女房達がしきりに、そう嘆いているのを、何度も耳にした。
私はこれから、どうすれば良いのだろうか。
押し潰されそうな不安と孤独に独り耐えながら、寒々とした日々への不安に、想いを馳せるばかりの私だった。