桐壷~源氏物語~
帝は、独り物想いにふけっていた。
彼には大勢の女御や更衣が仕えており、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)との間には、皇子までいる。
だが、これと言って心から愛しいと思う女性には、巡り会えずにいた。
いつか、その様な人と巡り合いたいものだとは思っているのだが、いまだにその願いを叶えられずにいるのだった。
そんな、ある日の事である。
朝、帝は女房達に手伝われながら衣を着ようとしていると、ふわり、と沈(じん)の香が漂ってくるのを感じた。
沈の香でも最高級の物を伽羅(きゃら)と言うが、それに勝るとも劣らない上品さ、爽やかさである。