桐壷~源氏物語~
場所は、桐壺。
帝は、すぐにでも夜のお召しで桐壺更衣を清涼殿に呼び出す事も考えたが、それより先に、相手の事を知りたいと思った。
その日の夜、帝は御殿には誰も呼び出さず、人目を忍び単身で桐壺へと赴いた。
すると。
心にしみわたる様な、優しく、しかしどこか哀愁を帯びた音色が聞こえる。
あの音は…?
艶やかで柔らかな、優しい箏(そう)の琴の音が、彼の心を魅了した。
聴けば聴く程、しみじみと心を打つ豊かな音色である。
帝は闇の中、しばらく柱に寄りかかって琴の音を楽しんでいたが、桐壺の姿を一目見てみたくて、御簾(みす)の外から内を覗いて見た。