准教授 高野先生の個人授業
「小林多喜二なんて読んでたの?」
「うん」
「おもしろかった?」
「うんん、つまんなかった」
「正直だなぁ…」
「だって、蟹工船なんて、読みたくも乗りたくもないって感じだもん」
蟹工船――
劣悪極まりない環境の船で遠い彼方の海へ連れて行かれ、過酷な労働を強いられる…
先生は私をいっそう側に引き寄せて、おでこをこつんとくっつけた
「僕だって、あんな船はごめんだよ」
「やっぱり、私はプロ文ダメだなぁ」
「それは、残念」
「あっ、でも、プロ文をやってる先生はダメじゃないですよ」
「“ほっ”、なんてね」
私たちは顔を見合わせて、くすくすと笑った