ほどよい愛
模型をきっかけに俺に惹かれた事は、随分前から気付いていた。
俺には苦い思い出と悔しさの象徴の『未来』を見つめる葵の真意がよくわからなかったけれど…。

パズルのピースが一つ埋まった。

「朝渡したファイルのどこかに、葵の両親の講演内容が書かれてる記事も入ってるから」

「うん…。カバンに入れて来たけど、借りてていい?」

「いいよ。親以前に、建築家として見習いたい話もしてくれてるから、葵にとっても勉強になるよ」

「…そうか…」

思ったより小さくつぶやく声が気になる。
信号で止まった時にじっと葵の顔を見ると、前方に視線を泳がせとぼんやりとしている。

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