ほどよい愛
「どうかしたか?」

葵の頬に思わず手を伸ばす。

はっと気付いたように俺を見ると、頬を包む俺の手を更に優しく両手で包みながら、

「…両親の事知らなかったなあって反省してたの」

決して投げやりでも落ち込んでるわけでもない。
どちらかというと…。

「恥ずかしい。両親がいなくなった悲しみばかり考えて、本来知らなきゃいけなかった事を知らずに過ごしてたのが…恥ずかしい」

軽く言いながらも受け止めた現実が大きくて、どう折り合いをつけていいのかの葛藤…。

揺れて落ち着かない瞳に、温かい安心感を与えてやりたいけれど…。

きっと、葵本人が自分のタイミングと勇気で受け止めていかないと…俺でも、葵が閉じこもってきた箱を壊す事はできない。


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