ほどよい愛
葵。
俺の前に新入社員として現れた二年前。
長い間女には不自由せず過ごしていた俺が、久しぶりに本気で自分のものにしたいと強く感じた女。

俺の受賞した模型を食い入るように見つめていたあの日以前に、会った事あったのか?

「何真剣な顔してるの?」

気付くと隣りにはからかい気味の笑顔の結衣がいた。

「いや…」

「どうせ、葵ちゃんの事考えてたんでしょ」

「あ?…そうだよ」

「はあ~。どうもすみませんね。大切な週末を離ればなれにしてしまって」

「まあな。今度おごれよ」

「はいはい。結婚祝いもはずむから、とっととプロポーズしなさいよ」

軽く背中を叩く結衣。このあっけらかんとした笑顔にどれだけ救われたか。

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