ゆうこ


 学校が終わった後も、優子は図書館や本屋で時間を潰してから家へ帰った。 家へ帰っても、自分の居場所がなかった。 義母と連れ子が狭い家の殆どの空間を占め、その存在が優子を圧し、自分は部屋の片隅から片隅へ、辛(かろ)うじて残された少ない空気を求めて呼吸している気がした。 父は何時も帰りが遅く、帰ってきても偶に、優子、仲良くしているか、と連れ子とのことを通り一遍(いっぺん)に聞くだけだった。 そんなとき、継母は、優子って、打ち解けない子ねえ、優しくし甲斐がないわ、と刺々(とげとげ)しく言った。 
 
 優子は継母のそんな言葉を、何時も乾いた気持ちで聞いた。 本当の母でない継母をお母さんと呼ぶ気にはなれなかった。 もし呼んだとしても、自分の声ではなく違った人の声に聞こえる気がした。 
 「優子、自分のことは自分でしなさいよ、あなた、お姉ちゃんなんだから」
 そう言って継母は、優子の着ているものは洗わず、食事の後始末も優子にさせた。 優子は何時も食事を早めに終え、ごちそうさまと小さく言うと自分の汚した食器を持って台所へ立ち、学校から帰ると自分の着たものを洗濯した。 優子の手は、子供の愛らしさを失い脂気が無くなって、冬には皸(あかぎれ)が走るようになった。
 継母と連れ子に打ち解けず、父親にも孤独を慰撫(いぶ)されることなく、学校でも友達と云う友達がないまま四年が過ぎて、優子は小学校を卒業した。
 
        





       *
 中学へ入って、相変わらず継母は優子に辛く当たったが、それでも偶(たま)に家族で夕食に出掛けることもあった。 向かい側に座った父を優子は縋(すが)るように見たが、父の目は一瞬優しさを宿したかと見えると、次の瞬間には優子を拒絶するように見えた。 
 何故優しかった父が変わってしまったのか、死んだ母と自分に対する愛が、義母と連れ子に移ってしまったのだと思うと悲しくて、優子は何時も俯いたまま黙々と箸を運んだ。
 
 中学二年生になった頃から、家の様子がおかしくなった。 父が帰らない日が多くなり、継母は事ある毎にヒステリックに優子を罵(のの)しるようになった。
 

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