ゆうこ
「母親があんな死に方をするから、アンタみたいなひねくれた子供ができるのよ」
ある晩、継母がそう言った。 事故で死んだ母のことを、責めるように言う継母が憎かった。 涙に潤んだ眼で継母を睨み付けると、優子は外へ飛び出していった。
夜の街を暗い方へと彷徨(さまよ)った。 誰も中学生の優子を見咎(みとが)めなかった。 背は小柄な大人くらいあったし、大人びた顔は中学生には見えなかったのだろう。
暗い小さな公園があった。 都会の真ん中に、誰にも省(かえり)みられず打ち捨てられ蹲(うずくま)っているような汚れた公園である。 申し訳程度の樹木があり、桜も何本か混じって闇の中に満開の花を咲かせていた。 暗い外灯が幾つか灯り、その光の届かないブランコに優子は腰掛けた。 まばらな樹木を通して林立するビルの明かりが見え、夜の街の騒(ぞ)めきが木々を通して別世界から聞こえるようだった。 もう、家に帰りたくなかった。 父は帰っていなかったし、居ても自分の味方はしてくれないだろう。 誰にも愛されていないと思った。 ひとりぼっちなんだと、優子は胸を抱えて独言(ひとりご)ちた。
「そうかい、ひとりぼっちかい」
直ぐ近くの闇の中に声がした。 驚いて声の方を見ると、少し離れた木の下に段ボールで囲った小屋があった。 その小屋がガサガサと動いて段ボール一枚が取り除かれ、黒い塊(かたまり)がむくむくと姿を現した。
「寂しいんだね、あんたも」
公園に屯(たむろ)するホームレスだった。 夜の闇と皮膚の黒さ、長いバサバサの髪で正体が知れなかった。 その体から、饐(す)えたような臭いが漂ってきた。
「でも、あんたは若いんだから、まだまだ良いこといっぱいあるよ。 頑張んないとね。 こんな歳になっちゃあ、おしまいだけどね」
皺嗄(しわが)れた声がそう言った。
浮浪者は小屋の前の段ボールに座っただけで、近づいては来なかった。
「おじさん、幾つですか? 年」
別に聞きたいわけではなかったが、優子は思わずそう聞いた。 人恋しい思いかも知れなかった。
アハハハ、と浮浪者は愉快そうに笑い、
「無理ないやね、こんな格好だし、声も涸(か)れてるし、ハハハ、でもねえ、私ゃあ、女だよ。 あんたと同じ、オ・ン・ナ」
と明るく言った。