ゆうこ

 女のホームレスの人もいるんだと、優子は少しびっくりした。 
 「ごめんなさい、暗くて判らなかったから」 
 「まあ、明るくたって判らなかったろうけどね」 
 さも愉快そうに、浮浪者は体を揺すって笑った。
 「どうしたんだい? こんな時間にあんたみたいな若い娘が・・・、未だ高校生じゃあないのかい? 話したくなかったらいいんだけどね」 
 その物言いに、優子は温かいものを感じた。 年の頃は五十くらいだろうか、 風体は普通ではないし、見ず知らずの他人だけれど、相手が女性だという安心もあって、優子は何だか親しみに似た感情を覚えた。 こんな歳になって、襤褸(ぼろ)を纏(まと)い公園で寝起きするこのおばさんは、一体どんな人生を歩んできたのかと思った。
 優子は、名を名乗り中学校二年生だと答えた。 七歳で母親が死んだこと、継母のことなどが口を衝いて出た。  
 
 「そうかい、苦労してるんだねえ。 でもねえ、あんたは強いよ、強いし、優しい、本当に強いから、私みたいな人間にも普通に話してくれる。 人間はみんな臆病(おくびょう)なんだよ、臆病だから、私みたいなのが近づくと、関わると格好が悪いとか、何かが移るみたいに逃げるんだよ。 貧乏だとか、病気だとか、汚いのがね。 確かにお金はないし、汚いし、ノミくらいは移るかも知れないけどね。 でも、ホント、中学生には見えないね。 しっかりしてるよ。 もうちょっと我慢したら、きっと良い人生が待ってると思うよ」
 そういうと、その浮浪者はごそごぞと段ボールの小屋の中をまさぐった。 
 「おばさんは、何でホームレスになったんですか?」 
 浮浪者は、又アハハと笑うと、真面目な口調で、
 「ううーん、困ったねえ、そんな風に聞かれると。 何でだろうね、優子ちゃんの学校にもいるだろ、周りの人と上手くやってけなくて、おちこぼれたのが。 まあ、私も社会と上手くやってけないのさ。 色々頑張ったんだけどね」
 と最後は呟(つぶや)くように言った。
 私も友達や家族と上手くやってけないけど、やっぱりこのおばさんみたいになるんだろうかと、優子は思った。 
 

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