ゆうこ

「こんな時もあったんだけどねえ」
 今井が、二人の子供と一緒に写っていた。 今井は未だ三十才くらいで、小綺麗なワンピースを着ていて、二人の男の子の肩に手を置き、優子の思った通り細面の美人だった。 子供は二人とも四つか五つくらいで、三人とも幸せそうに笑っている。
 
 「うわー、おばさんと子供? おばさん、きれいだあ」 
 優子は嬉しくなって、思わず大きな声で言った。 
 「ありがとうね、そんなこと言ってくれるの優子ちゃんだけだよ」
 「だって、ほんとに綺麗だもの。 子供さん、今どこにいるの?」
 「二人とも事故で死んじまったよ。 最初の人との子供でね」 
 今井は、ぽつりとそう答えた。
 優子は、何と言っていいか判らなかった。 
 「何で若くて未来があんのに、あんたにこんな暗い話、したんだろうね。 聞いてくれてありがとね」
 

 おばさんは社会人としては失格かも知れないけれど、人間失格ではないと優子は思った。 中学生の私でも子供扱いせず、年齢の差を超えておばさんは自分を晒(さら)して話してくれる。 他の大人は、私たちを子供扱いしているのか、全てをさらけ出すのが怖いのか、いつも年齢差とか社会的地位とか立場と云うバリケードの向こう側から何となく構えた格好で話してくる。 学校の先生も、学校の勉強以外のことで、私たちの人生と正面から向き合うのを避けてるみたいだ。 勉強さえ教えてればいいみたいな感じで、そんな先生はちゃんとお給料を貰って普通の生活して社会人合格かも知れないけれど、人間的には信頼できないと優子は思う。 
 
 結局、皆んな自分を守ることしか考えていないんだと思う。 廻りで人が悩んでたり苦しんでても、深く関わったら自分も面倒に巻き込まれるし、要らぬお金も使ってしまうと臆病(おくびょう)になって、私は関係ないと逃げ出してみたり、可愛そうねえ、と適当に表面的な同情をしたり、逆に、そんなことくらい、自分で解決出来なきゃあ生きてけないよ。現実は厳しいんだよ、とか判った風なことを言って、結局、自分さえ良かったらいいんだと思う。 おばさんが言ったように、皆んな自分の損得だけを考えて生きているのかも知れない。
 

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