ゆうこ

 大人になるってことは、きっとみんなと同じように臆病(おくびょう)な自分を隠すために、我関せずを決め込んだり、適当に同情している演技をしたり、生半可(なまはんか)な知識や知恵だけでお説教じみたことを言ったりして自分が偉いみたいな錯覚に酔ったりすることなんだろう。 大人になるってことは、きっとそういう色んな演技が出来ることなんだ。 演技しているうちに演技であることを忘れて自分に酔ってしまって、本当の自分が判らなくなってしまうことなんだと優子は思った。 
 
 おばさんは、きっとそんな演技が出来なくて、私が継母をお母さんと呼んだら何だか自分の声じゃないみたいに思うように、演技している自分が本当の自分じゃないみたいに感じてしまうんだろうと思う。 だから、おばさんは大人になりたくなかった人なんだ、と優子は思った。
 そして、社会人失格でも、おばさんの方が素敵だと思った。

       


      *
 耕三が家へ帰らなくなって暫(しばら)く経ったある日、数人の男達がやって来た。 経営していた建築の小さな下請け会社が倒産したのだったが、借金の殆どは耕三が個人名義で借りた町金融だった。 有無を言わせず金目の家財道具を運び出した後、物言いは穏やかだが暗く鋭い眼差しの男が言った。  
 
 「居場所知ってんでしょ、奥さん。 姿見せて貰わないと、奥さんだって責任あんだからね。 肩代わりして貰うことになるよ。 旦那の不始末なんだから。 まあ、こっちで捜せないこともないけど、本人が出てくるのが一番いいんだからね」
 「ホントに知らないんですよ。 私だって子供二人抱えて困ってるんですから。 早く出てきて貰って何とかして貰わないと、私の働きだけだったら、食べるのにもこと欠く状態ですからねえ。 此処(ここ)も引き払って、もっと安いところへ替わらなくちゃ、もうどうにもこうにも・・・」 
 と義母は男に媚(こ)びるように答えた。
 「まあ、今日はこの辺で帰るけど、居場所が判ったら直ぐ連絡して貰わないと、困るのはあんたたちだよ。 それに此処を引っ越すんだったら、ちゃんと新しい住所も連絡すんだよ」 
 男達はそう言って帰っていった。 
 

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