ゆうこ


 数日後、優子達は隣町へ引っ越した。 めぼしい家財道具はなく、着の身着のままと云う感じだった。 高層マンションに囲まれて一日中陽の当たらないアパートで風呂もなかったが、優子には何処でも同じような気がした。 家族とは云えない自分たちが住むのだから、立派な家でもオンボロアパートでも変わりはなかった。  
 それからも、男達は入れ替わり立ち替わり毎日のようにやって来た。
 
 「上の子、もう働けるんだろう? こうなりゃ、働けるもんは働いて誠意ってもんを見せて貰わないとなあ」 
 ある日、やって来た男が、優子を横目で見遣(や)りながら言った。
 「働けないこともないんですけどねえ、まだ中学なんで、何かと廻りの眼がうるさくてねえ・・・」
 継母は甘えたような声で答えた。
 「そんなのは、こっちでどうにだってなるさ、働く気があるのかってことだよ」
 男は薄笑いを浮かべながら言った。
 「どう? 優子。 働いてくれたら助かるんだけどねえ。その分を一寸でもこの方達へお返ししてさ、何しろおまえのお父さんのためだからねえ。 なるべく学校の邪魔にはならないようにさ」
 
 継母は何時になく優しい声で言った。 自分が働いて、それでお父さんが一日でも早く家に帰れるのなら働こうと優子は思った。 優子は、働きますと答えた。  
 継母は、そう、助かるわ、と笑みを浮かべ、男は適当なのを捜して二、三日中に連絡すると言い残してそそくさと帰っていった。   



 


 男に連れてこられた処は、場末の汚い雑居ビルにある小さなラウンジだった。 そうか、やっぱりこういうことか、と優子は思った。 エレベーターの中は嘔吐物(おうとぶつ)や尿の臭いが入り混じって、自分が働く処は、大人たちの薄汚い欲望の掃き溜めなんだと思った。 この空気を吸うまいと、エレベーターが止まるまで優子は息を詰めていた。  
 
 「いい子だねえ、吉田さんにしちゃあ、珍しいじゃないの」
 四十前後に見えるママは、優子を見るなり男に向かってそう言った。
 

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