ゆうこ
 男はそれには答えず、無表情なまま、じゃあ、後は頼んだよ、と言って帰っていった。
 
 「優子ちゃんだね、歳は十八にしとくんだよ、いいかい。 本当の年言ったら、働けなくなるからね。 わかったね。 名前は、そうだねえ、レイコにしよう。 源氏名は、カタカナでレイコだよ。 わかった?」 
 真剣な顔でママが言った。
 優子は、わかりました、と答え、よろしくお願いしますと小さく言った。 
 
 「吉田さんは何も言わなかったのかねえ。そんななりじゃ、どうにも何んないよ。 兎に角、服と靴を買わなくっちゃねえ、あんた化粧したことないんだろ?」
 ママはそう言うと、優子の返事も待たずに店の奥に屯していたホステスに向かって、
 「アカネ、この子を連れてって服二、三着と靴と、それから化粧品、買っといで。 アンタ、デパートで客の顔に化粧塗りたくってたんだろ、帰ってきたらこの子に化粧してやって、ちゃあんと店に出しても恥ずかしくないようにするんだよ」
 と言った。
 アカネと云うホステスは、無言のままこっちへやって来ると優子をちらっと見て、
 「幾らくらいの、買えばいいんですか?」 とぶっきらぼうにママに聞いた。 
 「適当に見つくろってさ、アンタの着てるの、この子にも似合うんじゃない?」
 とママはアカネの着ている服をつまんだ。 「だって、ママ、私の服、シャネルよ、こんなの二、三着も買ったら・・・」
 アカネは、素っ頓狂(すっとんきょう)な声で言った。
 「そうかい、じゃあこれで適当に頼んだよ。 ちゃんと領収書貰ってくるんだよ」
 ママは、アカネに一万円札を何枚か手渡しながら、今月の給料から差し引いとくからね、と優子に言った。

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