ゆうこ


 店内には数人の客が座っていた。 慣れない場所と服装で、優子は自分の体が強ばっているのを感じた。 ママは客の一人一人に優子を紹介してまわった。 その度に客は、ほぉー、と一瞬絶句し、圧倒されたように優子を見た。 その美しさは、軽薄な賛辞(さんじ)や揶揄(やゆ)をも拒絶するかのようで、普段は軽口を叩く客も皆押し黙り、暫くして、綺麗な娘だなあ、と感極まったように言った。 ママの後ろで、優子は、
 「レイコです。 よろしくお願いします」 と小さく言った。
 
 自分で化粧が出来るようになり、服装もアカネに選んで貰った三着と、今まで何を買ってくれるでもなかった継母が、これから頑張って貰わなくちゃねと何時になく愛想良く買って呉れた数着を取っ替え引っ替え何とか一ヶ月になろうとしていた。 
 しかし、言葉遣いや立ち振る舞いには何時までもぎこちなさが残り、いらっしゃいませ、がどうしても上手く出てこず、何時もこんばんわとだけ言った。 最初は怒っていたママも、すっかり諦めて、もうこんばんわでも良いわよ、と匙(さじ)を投げた。
 客の横にも、同僚のホステスが客の意向を汲んで、そっと優子の腰を押すまで座ろうとはせず、座っても堅い姿勢を崩さず口数は少なかった。 他のホステスには露骨に手を伸ばす客も、優子には遠慮がちだったり全く肌に触れようとはしなかった。 そして躊躇(ためら)いがちに触れてくる客の手を自然を装って逸(そ)らす、年齢に似合わぬ柔軟な潔癖(けっぺき)さを優子は持っていた。 
 
 その不愛想にも高慢にも映る堅さと、類(たぐ)い希(まれ)な美しさが好色な中年の欲望をそそり、優子目当てでやって来る中年客は多かった。 若い客は優子の美しさに見惚れながらも圧倒されるのか、話して面白いホステスを指名することが多かった。 
 多くの中年客から同伴の誘いがあったが、専門学校に通っていて朝も早いし、夕方まで授業なのでと言い訳して悉(ことごと)く断った。 他のホステスへの配慮からか、ママは別に文句を言わなかった。 ホステス達も、優子の美しさに嫉妬しながらも、客を取られないことで安心し、露骨な嫌がらせをする者は少なかった。
 

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