ゆうこ
客が優子目当てで来るのは勿論喜んだが、其れ以上に客が欲を出して優子を外へ連れ出そうとするのは、郷田の手前都合が悪かった。 最初は優子の美しさに喜んだママも、郷田のお気に入りと判ってからは、偶に優子の化粧が濃すぎると薄くするように言った。 優子は更衣室に戻ってなおしたが、薄ければ薄いで今度は清純な美しさが際立つのだった。 誰も、優子の美しさを損ねることは出来ないかのようだった。
「はいはい、ごゆっくりどうぞ」
ママは郷田に言うと、他の三人のホステスを目で追っ払いながら立ち上がった。
三人は、了解済みといった風に黙って席を外した。 郷田が、ちょっと二人にしてくれ、と人払いをしたのだった。
先程からママに言われ、優子は郷田の横へ座っていた。 郷田は優子を横に座らせて満足げに、相変わらずの自慢話に熱中していた。
ママやホステス達は、
「へえー、すごい」
「さすが、郷田さんねえ」
と、さも感心したように相づちを打っていた。
郷田への静かな怒りと軽蔑だけが、空しく優子の心を満たしていた
四人が遠ざかると、郷田は優子の後ろのソファーの背もたれに腕を預け、押し殺したような声で言った。
「今晩、食事でも食いに行こう」
優子は、顔を上げると郷田を見据え、言下にイヤですと答えた。 郷田の肉厚の脂ぎった顔が、目の前にあった。
優子の毅然(きぜん)とした言葉に、郷田は一瞬怯(ひる)んだようだったが、気を取り直したように、
「いいのかな、そんなこと言って。 オヤジも姿隠したままだし、オマエの態度次第で借金だって楽になるんだよ」
と薄笑いを浮かべた。
優子は、長い間黙っていた。
郷田は、え、どうなんだい? としびれを切らしたように何度も言った。
抑えていた郷田への憎悪と侮蔑(ぶべつ)の気持ちが、又沸き上がって来た。
「イヤです」
毅然と優子は繰り返した。
郷田の顔が強ばり、陰湿な怒りに眼が異様な光を放っていた。
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