ゆうこ

 「オマエの学校の先生にも、ウチから金を借りて女遊びに狂ってるのがいるんだ。 アレを見せてやったら喜ぶぞ。 何なら学校にばらまくように言ったっていいんだ、一ヶ月支払いを勘弁してやるってたら、やるだろうよ。 それでもいいのかい」 
 もう一秒でも郷田の傍にいたくなかった。 優子は黙って席を立った。 
 「おい、レイコ!」 
 郷田の怒声を背に、優子は更衣室へ入っていった

 
 「レイコ! アンタ、一体郷田さんに何を言ったんだい!」 
 ドアーを荒々しく開けて入ってきたママは、優子を睨みつけるとヒステリックに叫んだ。 
 「もう上がりの時間ですから」 
 優子はそう言うと、手早く着替えを済ませ店を後にした。 
 「レイコ! 戻っといで!」 
 ママの叫ぶ声が聞こえていた。 

       
     *
 家へ帰ると、台所の電気が未だ点いていた。 又吉田が来ているのかと優子は思ったが、扉を開けると継母が一人テーブルでビールを飲んでいた。
 「優子、さっきママから電話あったけど、アンタ、社長さんを怒らせたんだって! そんなことして、アンタ、一体どういう積もりなのよ! ウチの生活が社長さんにかかってるくらい、アンタにだって判ってるでしょ! これから、どうなると思うのよ! もうホントに、アンタたち親子にはウンザリだよ。 あのろくでなしにも、アンタの母親にも、アンタにもね」 
 継母は吐き捨てるようにそう言った。 酔いが回っているようだった。
優子には説明する気力もなかった。 説明した処で継母が判ってくれる筈もなく、そりゃあ、ああいう場所だから色んな事があるのは当たり前だろうよ、と片付けられるに決まっていた。 継母も現実のためなら、心なんて問題にしない人間なのはよく判っていた。 しかし、父と私に腹が立つのは判るとしても、一度ならず、死んだ母を悪く言うことは堪らなかった。 
 「何で死んだお母さんにウンザリなんですか」 
 優子は義母を正面から見据えると、そう言った。
 「だって、そうじゃないか、何も死ぬことはなかったんだ。 ありゃ、私への面当てだったんだよ。 アンタも母親も素直じゃないよ、ホント」
 何のことか判らなかった。 お母さんは事故で死んだ筈だった。
 


< 43 / 53 >

この作品をシェア

pagetop