ゆうこ
そうだったのだ、どんなに惨めな思いだろう、どんなに悔しいだろう、どんなにか身をよじるほど寂しくて悲しいだろう、皆んなが色とりどりの可愛らしいお弁当を開いている時に、空腹を抱えたまま、今はもう衆知(しゅうち)の中を、食べないの?と云う意地悪い言葉に、食欲ないから、と小さく答えて出て行くことが、 皆んなが談笑しながらお弁当を頬ばっている時に、寒風の吹きすさぶ中、人目に付かないベンチで空腹を抱え、皆が食べ終わる頃合いを待つことが・・・。
「食欲ないから・・・」
ゆうこの言葉がよみがえった。
三日目もゆうこの姿はなかったが、私は彼女のクラスへは行かなかった。 何だか彼女が学校へは来ていない気がした。 そしてずっとこのまま来ないのかも知れないとふっと思った。
しかし、四日目の昼休み、ゆうこはベンチにいた。 やはり北風の中で本を読んでいた。 ほっとして近づいた私に、ゆうこは前のようにはにかんで笑った。
「ウン、ちょっと具合が悪くて・・・」
学校休んでたの?と云う私の言葉に、ゆうこはそう答えた。 四日前より、痩せて見えた。
私は迷っていた。 昨日も、今日も二人分の弁当を作って持ってきていた。 急に早めに起きてお弁当を作り始めた私に、あら、まあ、一体どうしたの、自分でお弁当用意するなんて、しかも二つも、と母は訝(いぶか)しそうに、しかし嬉しそうに言った。 勿論、ゆうこと食べるとは言わず、クラブ活動の前にも食べるのだと言い訳した。
暫(しばら)く黙って突っ立ったままの私を、ゆうこは怪訝(けげん)そうに見上げた。
「ゆうこ、怒らないでね。 ここでお弁当、一緒に食べない? 二人分作ってきたから」
私は一気に言った。
一瞬、ゆうこの顔が冷たく強(こわ)ばり、そしてすぐに弛(ゆる)んだ。