ゆうこ
*
学校へ出た日は、朝から雪が舞っていた。 未だ微熱が籠(こ)もっていて、こんな日に行かなくても、と母が止めたけれど、ゆうこに会いたい一心で登校した。 バスを降り学校に近づくに連れて雪が激しくなり、無数の雪片が私を包んで舞っていた。 何だか雪の精に運ばれて、別世界へ行くようだった。 冷気が鼻孔を通して、微熱にふやけた頭に染み込んで行くようで、却(かえ)って熱も下がって行くような気がした。
校門の少し手前の自動販売機の陰に隠れるように、ゆうこは立っていた。 私が気付かずに通り過ぎようとすると、黙ったままスッと私の横に並んだ。 私が驚いて顔を上げると、怒ったようなうるんだ眼が私を見ていた。
「心配してた・・・」
俯(うつむ)きながら呟(つぶや)くように言うと、大丈夫?と気を取り直したように、私を見た。
「ウン、ありがとう。 ダウンしちゃった」
「教室へ行ったけど、風邪で休んでるって云うから」
「そう、ごめんね、心配かけて」
毎朝、自動販売機の処で私を待ったと小さく言った。 ゆうこが、皆んなの蔑(さげす)みの眼差しを覚悟で私の教室まで来てくれ、登校時の多くの好奇の目に耐えて私を待ってくれたのだと思うと、嬉しくて熱いものが胸に溢れた。 何人かの生徒達が、私たちを見て薄笑いを浮かべたり、何かを囁(ささや)き合ったりしながら、追い越していった。
私は、気になって、
「大丈夫だった? ミドリたち」
と聞いた。
「平気、もう慣れちゃったから。 それよりごめんね、この間のこと」
「ううん、私の方が・・・。 休んでる間に考えたの、いろいろ」
そして、わかったのだった、 あの時の私の言動が彼女に新たな屈辱感(くつじょくかん)を与えたことが、ミドリの蔑(さげす)みの笑いの方が、ゆうこにとっては楽だったことが。
「私、考えが足りなかった気がする」
「そんなことない、すごく嬉しかった。 リカだけ、あんなことしてくれたの。 でも・・・」
「うん、わかる。 もうしないから」
と私は答えた。