ゆうこ


私たちは、校門を過ぎていた。 校庭には雪がうっすらと積もり、校舎に続く処だけが生徒達に踏み荒らされて黒々とぬかるんでいた。 ゆうこと二人で、誰にも踏み荒らされていない真っ白な校庭を歩いて行きたいと思った。 
 廊下で別れるとき、ゆうこが思い切ったように、
 「学校終わって、もしリカが疲れてなかったら、話したいんだけど」
 と言った。 
 「いいよ、もう平気だから、私もゆうこと話したかったの。 校門のところで待ってる」
 と私は答えた。
 「じゃあね」
 とゆうこは、微(かす)かに笑うと、胸の前で小さく手を振った。 
 
 雪は、その日一日中降り続けた。 昼休み、矢張り気になって渡り廊下まで行ってみたけれど、ゆうこの姿はなかった。 今日はお弁当を持ってきているのだと云うほっとした気持ちと、この雪で校舎の何処か人目に付かぬところで、空腹を抱えているのかも知れないと云う思いが交錯(こうさく)した。 
 授業が終わって校門を出ると、少し離れた処でゆうこは待っていた。 降りしきる雪の白の中に、ゆうこが溶け込んで行くように見えた。 


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