赤いキャンディーボックス~小話詰め合わせ!~
幼い頃に何回か行っただけだから、具体的な場所も所用時間もあやふやだが、たしか、気が遠くなるほどの距離だったはずだ。
「飼うよ」
だから、まさか彼が飼うと言い出すとは、思わなかった。
先ほどは、あんなに無邪気な笑顔を見せていたくせに、今の彼の瞳は力強く、真っ直ぐだった。
“男”の顔をしている。
栖栗は、子犬を見つめたまま動かない。
嫌な予感がした。
「“私”が?」
「そ。栖栗ちゃんがー」
恐る恐る問うてみれば、彼はへらりと顔の力を緩ませて、当たり前のように言ってくれた。
予感的中、あっぱれ!
──何て、言う気にはならない。
とはいえ、栖栗の家はアパートではなく一軒家だから、ペットを飼うことについては、禁止されていないのだ。
近所にも、ペットを飼っている家はたくさんあるから、迷惑に思う人もいないだろう。
両親だって、犬が欲しいだの猫が欲しいだの、よく言っているから、絶対歓迎してくれる。
それに、こんないたいけな子犬を放ってはおけない。