彼女の嘘と俺の嘘


 演技ができるほどおれは器用じゃない。


 だからこれまで生身の人間には極力嘘はつかないようにしてきたつもりだ。


 嘘によって身内が傷つくのを目の当たりにしてきたし、話している相手が嘘を言ってるとわかれば無償に腹が立つ。


 友達と遊ぶ約束をすれば必ず守った。


 貸したゲームソフトやCDが返ってこなくても約束どおり貸したという達成感があるから「返せよ」と迫ることもしなかった。


 あるとき、おれの前で友人Aが友人Bに嘘をついた。

「KちゃんとS先輩は付き合ってないらしいぞ」

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