先輩と私
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自分の家が見えるときいつも焦る。話したいことがあるはずなのに何も話さずに別れなくてはならなくなるから。
先輩は何もしゃべらない。
「先輩」
私は歩くのを止めてしまう。先輩がこちらを見る。
「家、誰かいんの?」
明かりのない私の家を見ながら先輩は言う。
「いえ、今日は誰も」
「そ」
私が、先輩に時間がさける理由はこれにある。
基本的に家には誰も居ない。
父は仕事で出張が多く、母はいつもそれに付いて行く。兄二人が居るがもう独立している。
「飯、食いに来るか?うちは、一人増えたって困んねえし」
少し期待していたその言葉に嬉しさと驚きを感じる。
「そんな、ご迷惑かけられません」
すると、先輩は大きな溜め息をつく。呆れ顔だ。
「いつも言ってっけど、迷惑じゃねえ。母さんに関しては喜ぶぞ」
「そうですね。でも、帰りに叔母さんが先輩に私を送るように言うと思うんです。それは、迷惑でしょう?」
微妙に先輩の目が座った。私が首を傾げると先輩の顔が固まった。どうしたんだろ?最近、先輩はこういう態度が多くなった。
「先輩?」
先輩は、少し目を泳がせる。私は、意味が分からなくて困ってしまう。先輩は、もう、知らないと言わんばかりにそっぽを向いて歩き出した。夕飯、もったいないことしたなあ。
「一人で飯食うのやじゃねえ?」
先輩がこちらを見ずに尋ねる。私は、どう答えればいいか分からず苦笑するしかない。
「飯、二人分作れ」
「え?」
先輩は、鞄の中から携帯を取り出した。