パパとママって呼ばせて。
「これ……は」

大木の根本に落ちている物を見て、秋は震える声で驚き、ゆっくりと落ちている物に手を伸ばす。

「間違いない。これは勇樹さんの戦闘帽」

秋は勇樹の戦闘帽を胸に当てると、心から悲しみの感情が再び溢れ出した。

大木の前で座り込む秋を見て、少年は近寄り言葉を掛ける。

「ねぇ、ママって呼んで良い」

「えっ……」

ニッコリと笑った少年の口から語られた言葉に、秋は驚いた。少年の口から『ママ』と言う単語が、秋に向けられたからである。

「…………」

少年の言葉に秋は戸惑い、言葉を無くす。そして、少年の言葉が秋の抱いていた疑問を、一つの線で結んだ。

お腹の中の赤ちゃんが自分のお腹を蹴ったように感じた。それは、錯覚であると秋は思っていたのだが――。

違った。

少年の言葉で、秋の疑問は確証へと変わった。目の前に居る少年は、やがて産まれて来るであろう自分と勇樹の子供だと――。
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