先生×自分
ちょっとしてから、お父さんが空き教室に来た。
不安が押し寄せてくる。

「今から、見せたいものがあるんです」

「見せたい…もの?」
私も分からなかった。先生が今から何をするのか…
でも、きっと何か良い理由があるはず。
「これです」

テレビをつけた先生。ちょっとだけ微笑んで私の隣に来た。
…テレビ?テレビって言えば…お母さん?
そういえば今日、ライブがあるって言ってたっけ。
放送されるのかな?お父さんは何がなんだか分からないみたい。
でも、お母さんと要兄が歌っている所を見ると、嬉しそうだった。
やっぱり、まだ好きなんだね。
良かったよぉ。

《次の歌は…ある人の為に歌います》

要兄が言った。お母さんは、驚いているみたい。
多分、打ち合わせしてないんだろうな。ていうか、計画してたんだね、要兄。

「あー…じゃ…」

いつも無表情のお母さんが少しだけ笑った。
きっと、お父さんを思い出したんだね。まだ好きだよね?

「いつか他の誰かを好きになってしまっても、僕のキモチは変わらないよ。
いつだって僕を支えてくれてた君。

それを嫌がった僕を何も言わずに強く抱きしめてくれた。

ずっと手を繋いでくれてたね。
ずっと抱き合っていたね。
こんなにも幸せな日はなかったよ。

今頃気づいたんだ。こんなにも君が大切だったことを。
当たり前に思えてた君。
離れて分かった。
大切過ぎて、いないとダメだった。

闇の中で、泣いてる僕の手を握っていてくれたのは君だった。
いつだって励ましてくれてた君に今頃気づいた。
大切だった。なのに突き放した。

君は今、どうしてる?僕を忘れてる?
思い出にしてもいいから…僕のことを忘れないで。

キッチンに立っていた君を思い出すんだ。笑顔で振り向く君。
今頃気づいた。こんなにも大切だったんだ。

ずっと忘れてた。君の温もりを。信じることも忘れてた。

今頃気づいた。信じる意味を…
誰よりも大切な君へ。もう一度…逢いたいです」

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