向日葵の下で
「っはー、何なんだよあいつは・・・」
雪村さんは一気に脱力したようで、起こしていた背中をボスンとベッドに沈めた。
私は何か声をかけなければならない気がしたが、何も言葉が出てこなくて、ただ微笑むことしかできなかった。
「・・・嬉しかったんだ」
雪村さんがポツリと言った。
ベッドに寝転がって、腕で目を覆っていたから、一体どんな表情で言っているのかは判別できなかった。
「絶対に、早く記憶が戻るようにって急かされるんだと思ってた。あいつが俺に気さくに話しかけてくるのは、前の俺に話しかけてるだけで、今の俺のことなんて絶対見てないんだと決め付けてたんだ。・・・でも、違った」
佐上さんは『今』の雪村さんだけを見ていた。
雪村さんの記憶を戻したいというのが大前提だということは承知してのことだろうが、佐上さんは現在の雪村さんの人格を尊重していた。
佐上さんはすごい人だと思う。
多分佐上さんは頭で色々と計算して物事を進める人ではない。全部佐上さんの心がそうさせているんだと思う。
普通なら、きっとできない。
早く記憶を戻してほしくて、急かして、焦らせて、結局苦しめてしまうものなのではないだろうか。
ああやって本心を言い合えるなんてそうそうできることじゃない。
ましてやそれで相手を納得させ、友好な関係を築くなんて・・・。
「私も、佐上さんを見習わなきゃな・・・」
私がそうやって呟くと、雪村さんは鼻で笑った。
「はぁ?おいおいふざけんなよ。ウゼーのが二人になっちまうじゃねぇか」
そうは言っても、雪村さんはいつもの嫌味たらしい顔ではなく、素直に微笑んでいるように見えた。