向日葵の下で
鈴木さんはおもむろに携帯を取り出すとメイン画面を私の目の前に押し付けた。
「近い、近すぎて見えないよ・・・」
私の眼球から1cmほどしか距離が無い、これでは見えるものも見えないので鈴木さんの手から携帯を奪い取って見やすい位置に移動させる。
待ち受け画面に映っていたのはさっき私が顔を合わせていた患者さんとつきそいの3人で、下のほうに『SHANGRI-LA』と書かれてあった。
「今時『SHANGRI-LA』知らない20代なんて、ほとんどいないって!!今CDなんてガンガン売れてるしテレビにもひっぱりだこなんだから!」
「そうなの?全然知らなかった・・・で、鈴木さんは彼らのファンなわけ?」
「当ッ前!!」
鈴木さんは、よくぞ聞いてくれた!という顔をした。
話によると彼女は、『SHANGRI-LA』がデビューしたてて間もない頃にファンになり、大人気になった今でも大ファンなんだそうだ。
「ファンクラブのナンバー、私2桁なんだから!!」
今までにないほど鈴木さんは嬉しそうに語った。きっと、本当に『SHANGRI-LA』が好きなんだろう。
「そっか、じゃぁ問診の時とか楽しみだね」
私が鈴木さんの腕を肘でつついてやると、彼女は顔をニヤけさせてとろけるように顔を綻ばせた。
「それにしても、本当に信じられないなぁ~、佐々木さん本当?名前ぐらいは聞いたことあるでしょ?」
「いや、全然。ホントにさっきまで知らなかったんだって・・・」
「どうしたの?」
後ろから声がして私と鈴木さんはビックリして勢いよく振り返った。
視線の先には今日はもう帰ったはずの婦長が立っていた。
「婦長!どうされたんですか?帰ったんじゃ・・・?」
「え?あぁ・・・それは・・・」
婦長は顔を俯かせ、本当に小さな声で、「『SHANGRI-LA』が入院したって聞いたから・・・」と言った。