平和祈念作品集
「ところで、ルーイ」

「はっ、何でしょう」

「…2人きりの時は、敬語はやめてくれないか」

 ルーイは、辺りを見回した。

「俺たちは、義兄弟の仲だ。敬語を使われると、どうも調子が狂う」

 シライアスは、そう言って、ルーイの肩を叩いた。

「確かに、貴方とは、義兄弟の杯を交わした間柄ですが…」

 ルーイは、シライアスの眼を見た。

「でも、貴方は、この星の指導者です。たとえ義兄弟といえど、親しげに話すわけにはいきません。長老が眼を光らせていないとも限りませんからね。シライアス様との会話の内容次第では、私が長老に怒られてしまいます」

 シライアスは、頭を抱えた。

 長老ターレスは、指導者が他の者と親しげに話すのを、極端に嫌っている。指導者の地位が揺らぐことへの懸念からなのだが、シライアスには、それが窮屈に感じられた。

 何とかして、自分の代で、その慣習を断ち切りたい、そんな思いが、どこかにあった。

 だが、ルーイはそうではなかった。指導者を尊重するように育てられたせいか、尊敬する「指導者」の人間に対して、親しく話すことはできなかったのだ。たとえ、それが、義兄弟だったとしても。

「だからと思って、この辺境に来たのだが…」

 2人が立っているのは、赤い岩の上だ。周りには、土と石しかない。そのすべてが、夕焼けによって、赤く染まっている。

「辺境だからといって、長老の目はごまかせませんよ」

 ターレスは、千里眼の能力を持つ。この星だけではなく、遠く離れた地にいても、シライアスの行動は見抜かれているのだ。

「…そうだな。そうだったな」

 シライアスは、そう言うと、ルーイと黒い星に背を向けた。

「シライアス様、どちらへ?」

「もう少し、この地を散策する。何かあるかもしれないからな」

「では、私もお供します」

「いや…今は一人になりたいんだ」

「でも!」

「一人で考えたいことがあるんだ。わかってくれ」

「そうですか…」

 ルーイは溜息をついた。

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