飛べない天使の子


王子に正座で向き合う。
王子も正座をした。残念なことにふーちゃんは端によけられてしまったけど。


「とりあえず触っていい?」

「えっ?」

「沙久それじゃあ変態だから」

「ああ! えっと、これからよろしくってことで握手しない?」

「でも…気持ち悪いよ」


王子が俯きがちに呟く。
憂いている王子も美しいけど、笑顔の方が何倍も素敵だって知ってしまったにはそんな顔させない。
それに私は気持ち悪いだなんて思わない。だってその体質も含めて王子でしょ?


「好きだよ」

「「!」」

「天使って見たことないけど、天使の羽みたいでふわふわしてて綺麗で、私王子の体毛好きだよ」

「……ありが」

「それに王子と握手できるなんて夢のよう! 絶対手洗わない!」

「ふふっ! 本当に百地さん面白いね」


なぜかお腹を抱えて笑う王子。今日一日で王子のイメージがどんどん崩れていくな。でも、こっちの人間らしい王子の方が良いし、観察しがいがある。
差し出した手を王子は数秒凝視してから握った。
予想通りスベスベでいくらか骨ばっているけど細い。

1、2、3、4、5、

ちょうど5を数え終わる頃に王子の手の変化が始まった。


「至!」

「5」

「私も!」

「軽いキスは出来るな」

「すぐそっちに持ってく…」


キョトンとした王子に説明する前に、私に観察、もとい、研究させてくださいね。
手を離し、羽が生えた手のひらをじっくり見る。不思議なほど混じりけのない白で、触り心地は抜群。かき分けて生え際を見ようとするが、表面と違って皮膚に近いところほど硬く、ハサミで切れるか怪しい。
うーん…見れば見るほど謎だ。


「あの…百地さん?」

「ちょっと待って王子」

「でも、」

「それぐらいにしとけ。王子が噴火する」


至の言葉に顔を上げると、確かに噴火しそうなほど赤い王子。
…あれ? 私恥ずかしいことしたっけ? よく至には存在が恥ずかしいとかヘヴィーなこと言われるけど…うむ、王子は繊細なのか!

王子から離れて説明をした。


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