飛べない天使の子


「今のは王子の体質が何秒で反応するかの実験でした。後半の観察は趣味です」

「さりげなく“変態です”って言ってるな」

「無趣味はつまらないじゃん!」

「もっとまともな趣味にしろよな」

「至だってエロほ…」


漫画をパラパラ捲りながら話していた至の手がピタッと止まり、よくあるホラー映画のように機械的にクビをこちらに向ける。
怖いっていうか、キモイ。


「…読書が趣味でいらっしゃるんですね」

「知的だろ」

「それが点数に繋がればねぇ……てか、早く勉強しろ単細胞」


段々至との会話も面倒くさくなってきたから暴言を吐く。大丈夫、王子の前の至はほんのり紳士だからね!


「いてっ!」

「チョーシに乗るなっ」

「へ~そんなこと私に言っていいの? 知らないよ夏休み毎日補習三昧」

「…うっ…スイマセン沙久様。申し訳ございませんでした!」

「しょうがないな~」


悔しく歪んだ顔にちょっと優越感。リュックからペンケースを出して、至の隣に座った。
何が分からないのか聞くと、全部だって。


「王子! 私はこのバカに教えなきゃなんないけど、王子は好きなことしてていーよっ」

「…僕帰るよ。邪魔みたいだし」

「なんで!? 全然邪魔じゃないよ! むしろ至の方が邪魔だからっ」

「ちょっと待「いたるぅぅぅう!!」

「あ、種樹(しゅき)」

「俺新しいゲーム買ったんだ! 至やろうぜ!」

「重い! 離せ!」

「アネキお帰り! そっちのイケメン誰だ?」


至の後ろからひょっこり顔を出す我が弟は王子を見て、興味津々に聞いてきた。
うん、種樹、とりあえず至が窒息死する前に手を離してあげようね。その首の絞め方ヤバいから。
私は固く閉じられた種樹の腕を至の首から離した。

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