飛べない天使の子
「最初っから話し合いで解決しようとは思ってなかったわ」
一際偉そうな、でも一番美人さんが落ち着いた高い声で言った。
大和撫子風を装っているけど、間違いない、桂子の言葉を借りれば「こいつが親玉だ」。
経験上一番厄介でもある。
予想通り親玉は子分に命令して私の腕を倉庫の壁に押し付けた。
コンクリートに容赦なく打ちつけられて、骨が軋んだ…気がした。皮膚は完璧やられたね。
「あまり手荒いことは好きじゃないの。もう王子に近づかないと言えば何もしないわよ?」
「どうして?」
泣いていた、まるで親に捨てられた王子に何かしてあげたい。
私じゃまったく力になんないかもしれないけど、微力でも手を差し出せればいいの。
それが秘密を知ってしまった義務だよ。
……なーんて、後付けはどうでもいいんだ。
あの裏道で王子に一目惚れしちゃっただけだから。とは言っても恋愛感情はないけどね。
あ、今朝王子が拒否したのはこれを心配してくれたからかな。そうだと嬉しいな。
「なに笑っているのよ!」
「いや、王子は優しいな、と。……あ」
「あんたなめてんの!!」
「ぶっ…はははっ!! 沙久ばかじゃねーの! 敵に塩送ってどうすんだよ」
「うるさい。それを言うなら火に油を注ぐでしょ! 自分でも地雷踏んだってわかってんだから。…って至?」
「おう! 迎えに来ましたオヒメサマ」
「うわ~キモイ……どうせなら王子に言われたかっ……あ」
「……今日は引き揚げるわ。だけど、覚えておきなさいよ」
親玉は悪人の常套句を言って去って行った。
と、終わるはずだった物語に至が追記を加えた。