飛べない天使の子
「……行ったな。おーい、沙久?」
「変態」
「お前、仮にも助けてくれたヒーローにそう言うか?」
「ヒーローって柄かよ」
「……怒んなよ」
「嫁入り前の娘に破廉恥なことしといてよく言うよ」
「破廉恥って……まあ、いいけど、しばらくは恋人ごっこしてた方がいいかもな」
「なんで?」
これ見よがしにため息吐くと、至はとんでもないことを説明し始めた。
王子はあの通り人気者だからこのままでいたら(たとえ私が友達だと思っていても)今日みたいなことが多々起こるだろう。
それならいっそ偽彼氏でも作った方が王子との関係は続けやすい。
狙っていると文句言われても反論できるし、呼び出しもなくなるだろう、と。
「でも、そんなの…」
「王子の体質直してやるんだろ?」
「……うん。でも、至彼女欲しいんでしょ? 誰も寄り付かなくなっちゃうよ?」
「あー、んなことどーでもいいよ」
「どうでもいいって! それが唯一の悲願だったのに……」
「どんだけ寂しい奴なんだよ。…誰でもいいわけじゃねぇよ。好きな奴と付き合えればいいの」
「じゃあ尚更私と……」
「……かん。いいって。別にそこまで欲しくないし。今は王子だろ」
最初が聞こえなくて聞き返すと何でもねぇ!と怒らせてしまった。
わけわかんない奴だ。
でも、この提案はありがたいかも、と同意した。
じゃあ帰ろうかと言うと、待ったがかかる。