飛べない天使の子
【Keiko’s eyes】
あたしと至で沙久を見送った後、逃げ出そうとする至の手首を折るつもりで掴んでにっこり笑ってやった。
怒っていることに気づいてるんだろ?
上手いこと逃げられていたけど今日こそは吐かせてやるからな。
覚悟しろよ。
「チョコバナナ生クリームinジェラート」
「珍しく高いの頼むなー」
「至の奢りだからな」
「…何かやったのか」
兄貴が至を見て面白そうに呟く。
ま、兄貴つっても本物じゃねぇけどな。
あとは至に任せてベンチに座る。
族抜けたり怜生と付き合ったり、ここ数年で目まぐるしく変わったあたしだけど、変わらないものが2つある。
尾崎豊と沙久だ。
尾崎豊の素晴らしさはいちいち語る必要はないだろう。
沙久は……割愛する。
とにかくだ。あたしにとって生きている人間で一番は沙久だ。
その沙久を汚い手を使って得たあの男を殺ってやろうかと思ったが、真意を聞いてみてから判断しよう。
至が沙久を好きなのは前から知っていたし、沙久を好きになって彼女と別れるほどの一途さも見たし、いい加減じゃないことはわかる。
あたしも大分我慢強くなったな。
「でも、きたねぇ」
好きなら堂々と告白しやがれ!
クレープを持って走ってくる至を睨むと、危険を察知したのか素早く身構えた。
馬鹿が、早くしろ。と怒鳴ると全速力で走ってきた。
「さぁーて話してもらおうか?」
「……沙久の言った通りだ。王子と普通に話すため、」
「強引にくどいた? はっ、漢(おとこ)かてめぇは!」
「…怒んなよ。しょーがねぇだろ。ぐずぐずしてたら王子に取られそうだったし…」
「コロス」
「ちょ、ちょっ! 目がマジ!」
「なんで、その場で告んなかったんだ」
「……言いかけたけど、沙久があまりに無防備で鈍くて俺の遠回しの告白未遂に気づかなかったんだよ」
「漢ならはっきり言えや!」
「…できるか? リンチされかけて弱ってる沙久に付け込むこと」
「十分付け込んでんじゃねぇか!」
「ああ…今思えば失敗したと思う。彼女役の沙久はいつも以上にかわいいから色々抑えんのキツイし、それに……」