飛べない天使の子
「……馬鹿面。浮かれ過ぎだ沙久」
「ヒカルンはしけた面だね」
「…殺されてぇ、と」
「お、落ち着いてください」
「だいじょ-ぶだよ王子。ジョークだから」
「沙久のヒカルンも大分慣れたなー。最初はマジで殺してやろうかと思ったが」
ニヒルな笑いを浮かべたヒカルンに王子は本気で怖がっていた。
まあ、ヤクザみたいなナリだもんね。しょうがないっちゃあしょうがない。
「王子、こちらはヒカルン」
「こら沙久」
「ヒカルン、王子だよ」
「おめぇはそろそろ常識習いやがれ」
「ヒカルンに言われたくない」
「あ? やんのか?」
「やだよ、痛いの嫌いだもん」
「あの、」
「なら口を慎め」
「あの! クレープ買います!」
か弱き女子高生が金パの不良に絡まれているのを不憫に思ったのか、王子はわざわざ挙手までしてくれた。
便乗して、私も注文する。
生クリームとストロベリーは黄金の組み合わせだよね!
「王子は?」
「僕は…「一番高いのにしろ。初回だから半額にしてやる」
「半額? けっちい~」
「てめぇは二倍だ」
「払わないもんっ」
300円きっちり出して、逃げるようにベンチに走った。
王子とヒカルンは和やかに話しているみたい。よかったよかった。…王子の顔見えないけどね。
あ、お金返されてる。なんだかんだでタダであげたなぁ! ずるいっ!
……でも、まあ、王子だし。ヒカルン礼儀正しい人好きだもんな~。
ん? あれ? これ、桂子のスカーフだ。桂子もここに座ったんだ。
赤い柔らかい布を拾い上げてまじまじと見ていると、不意に声をかけられた。
「どうしたの?」
「え、う、おーじ! クレープありがとう!」
「どういたしまして。結局おごってもらっちゃたんだけど、いいのかな?」
「いいのいいの! ヒカルンああ見えて優しいから」
「…そっか」
苦笑いだった王子の表情がみるみる内に本当に嬉しそうな顔になる。
だから、それ、反則だって!
晴天の下、スイートなクレープを食べて、イケメンの隣に座った私は日本一の幸せものだと思う。
他愛のない話をしていたらいつの間にか日が暮れて、家路に着くことになった。