飛べない天使の子
「本当に平気だよ?」
「美味しいクレープ屋さん教えてもらったお礼だから」
「…騙されないから!」
「百地さん…?」
こうやって王子は女の子を落としていくのね!
キラースマイル!
家まで送ってもらっちゃってるんだけど、羨望の視線が痛いのなんの。
まあ、見たいだけ見なさいよ! ははっ!
「沙久? と、王子?」
「あ、至! ……じゃなくて、ダーリン」
家に着く直前に至に遭遇。
どうしたの、って聞けば、そっちこそ、と返される。
「王子とデート! …おっと、浮気じゃないよ」
「! 全然そんなつもりは…」
「そう言われるとちょっと傷つく…」
「え? ご、ごめん…」
「なーんて、ね」
冗談交じりで笑うと、王子は苦笑した。
ん? んん? 嫌な気持ちにならない苦笑だぞ。
王子の顔を下から覗き込むと、狼狽する。目を真ん丸にする王子が面白くてじっと見つめていると、強い力で後ろに引っ張られた。
至だ。…怒ってる?
「俺の彼女に手出さないでくれる?」
「待て、王子は出してない。むしろ、私が、」
「沙久は黙ってろ」
「……」
至が王子を一方的に睨みつける。王子はさっき以上に慌てている。
険悪ムード?
これは、あれか。一生に一度言ってみたい台詞1位のあれを言う雰囲気か!
よっしゃああ! 言っちゃうぞ!
「私のために争わないで!」
「「……」」
「え? 違う」
「……それ言ってみたいだけだろ」
「うんっ、さすが至! よくわかっていらっしゃる!」
深いふか~いため息を吐いた至は、王子から視線を外した。
うん、よかった、仲直りしたみたい。
険悪ムードなんて嫌い。みんな仲良くが基本です。
和やかになった空気に安心して家へ入ろうとすると、至が追いかけてくる。
「沙久、……明日、な」
「うん。じゃあね、ダーリン。王子も」
至何か言いたげだったなぁ…甘い匂いもしたし、顔もなんだか疲れてた…?
でも、わかんないよ。本当の彼女じゃないし、何もわからない。
王子の時折見せる寂しげな表情だって理由わからないし…私わからないことだらけだな…。